『ホームグラウンド』制作日記④ 見本が届く
見本が届く。
著者献本は10冊のはずなのだが、3箱も本が届いた。一番小さい箱だけ開いて、どうすればいいのか発行元の本の雑誌社杉江さんにメールする。ほどなく返信があり、残りの100冊にサインをするよう書かれていた。詳しくは大きい箱に指示書が入っているとのこと。箱を開き指示書を読めば、大至急サインをして返送してください、とある。ありがたいことに、「サイン本作成手引き」なる文章も添えられていた。そこには気になる一文が。「もしご用意がありましたら落款など捺される著者さんもいらっしゃいます」と。当然当方はご用意などしていない。
これまで頼まれて(頼んでくれたのかもしれない)何度かサインはしたことがある。フツーに「はらだみずき」と書くだけであった。どうしたものかとしばし考え、やはり「はらだみずき」とフツーに書くことにした。でもそれだけでは味気ないので、ちょっとしたマークを入れることにした。このマークの意味がわかるといいのだが、まあ、それはそれとして……。そして、落款はないので、娘に頼んでハンコを作ってもらった。
サイン本作成手引きには、「サインが終わりましたら同封の半紙を差し込みください。裏うつりしないようにするためです」と書かれていた。なるほどね、と感心する。そして最後に、「それとサイン本1冊は僕の分なので(笑)、杉江由次と名前を入れていただけるとうれしです!」とあった。
指示通りすべての本にサインをすると、もう深夜である。最後に思い出し、杉江さんの名前を書いた。「杉江由次様 営業よろしくお願いします。 はらだみずき」 フフフ、と笑っていると、「あ!」と叫んだ。同封の半紙を差し込むのを忘れ、ハンコがにじんでしまった。一般の読者の方の分でなくてヨカッタと胸をなでおろし、そのまま荷物に入れた。
職業には、いくつかの幸せを感じる瞬間というものがるあるだろう。小説家にとっては、最初に出来上がった見本を手にするときが、そのひとつだと僕は思う。冬の薄日の差す場所で本をめくりながら、ひとり喜びを噛みしめた。
『ホームグラウンド』 2月下旬発売予定。
| 固定リンク






